パタン、ゴトン ちょうど郵便が届き、故郷の香りが郵便屋さんの荷物から漂ってきた。どこかで嗅いだ事のある匂いに、私の全神経がめまぐるしく動いたのです。何時もなら渇いたのどを鳴らす時間帯に、何故か涼やかな気配がしています。
受け取ったお父さんは荷物をテーブルに置き、カッターナイフを取り出して梱包を開けると、 ありゃー、可愛い夏ミカンやわ とお母さんに告げ私の目の前に翳して 要るかい と目で訴えているようだ。
なーんだ、かんきつ類の匂いだったのか、酸っぱそうな感じだし、どっちでもいい食べ物だもんね、私には、、。
お父さんはそれを承知で私の頬にくっつけるように一つ置くのです。
当然私は隙を見て鼻でパターをするように転がしてやったの。 それが予定通りだったのかお父さんは嬉しそうにして、ほら涼しいよ と言って荷物の底から蓄冷剤を見つけ出してタオルに包んで私の顎に置いてくれました。
西日が強いこの時間では顎をクールダウンすると頭と胸が気持ちよくなるのです。
ちょうど汗ばむ縁側でガブリとひと齧り、スイカの香りに包まれる心地よさがあるのだが、この時間帯にひんやりとした蓄冷剤の出現と、柑橘の涼しげな香り、これは私が足腰を悪くして過ごし始めてから画期的な瞬間を作り出したのです。
唾の溜まるような夏みかんの匂いには軽やかな風情が漂っていて、暑さが消去されたかのように錯覚してしまう程の効果が在り、ましてや下から伝わる冷気は部分的に思考を緩和してくれ、何時までもこのままで居たい様な心地良さだよ。
極楽、極楽。
出来ればで良いのですが、一眠りして目覚めた頃、私のご飯茶碗にかき氷が乗っていますように、アイスクリームが添えられていますように、そんな夢を見ましょ。