とうとうなのか やっとなのか もうなのか 気が付くとはなしに 意識は薄れて行ってしまった。
朝から病院へ行き、いつもの注射と栄養剤の点滴を行い、寒さしか感じなくなっておかしいなと思ったんだ。
左手が温かい、少しごつごつとした大きな掌が肉球に優しく触れる。陽だまりを浴びたふとんに包まれたような気になる。
ダメだ、両目がもう開かない。
落ちた体力が萎まぬように背中に精一杯の力を入れていたんだけど、お父さんのぬくもりで油断しちゃった。
床ずれを防ぐために、身体を小さな両手に抱えられ右を向く。お母さんの匂いに 詰まっている全身の細胞が水面に落とされた絵の具のように広がる。
ホントに駄目だ。漏れ始めたおしっこは止めようが無い。
オカシイ、飲んだはずの水が自然と口から零れる。
粉雪が大地にしみ込むように、赤色のタオルが濡れてゆく。
わたしが食べることが出来なくなると、老齢の身体はいともたやすく萎んだ。
日に日に力が入らなくなっていくのをあがく声は闇に飲まれる。
身体の中の血潮と心が煙のように少しづつ消えていく。
だんだんお父さんの手のぬくもりが解らなくなる、もっと強くつかんで。
手がちぎれるくらいに掴んで。
お母さんの匂いも霞みはじめる。頬をよせて。 もっと近くに来て。
薄れる意識、弛緩する神経、もう伝えれない事だらけ。
本当に有難う、たくさん遊んでくれたお兄ちゃんたち、みんな彼女も出来たみたいでよかったね。
私は、おばあちゃんになってもう老衰で消え去るんでしょうけど、わがままを言わせてほしい、あまりいい子ではなかったけれど、神様がいるならしっかり伝えて。
私の事を覚えて於いて下さい。
おかあさん、おとうさん、うえのおにいちゃん、したのおにいちゃん、私をいつまでも心の中にデンと置いて下さい。
私の人生はあなたたちのお蔭でとても楽しい人生でした。
走ったり泳いだり、散歩で道に迷ったり、笑い声が絶えなかったので、はしゃいで吠えてよく子供にいたずらをされたけど、こんな子がいたねってほかの人たちは私の家族に話すのでしょうか
ときどき、夢の中へ呼んでください。
あーあ、ねむい、、
おやすみ